猫達人現る
「誰か、猫飼いませんかー」
「猫、欲しい人いませんかー」
と叫び続けること、しばし。
同じ会社に勤める方が「猫、飼いたいっすね」ということで我が家に来ることになった。
聞けば、おうちはペット可であり、
テレビを設置しようと思ったら、奥様から「そこはキャットタワー置くから、ダメ」と言われたそうで。
こんな、夢みたいな話がありますか。
猫が欲しい人がこんなに近くにいたなんて…。
たまに近所の方に預かった猫を見てもらうも、
「かわいいー♪」とケージを覗いてみれば、
おさじやウィンクからは、「シャーッ!」の攻撃しきり。
が、今回来た猫達人は違った。
「夫婦で猫カフェにも行くんですよ。」という若干20代の奥さんは、美人で猫さんみたいだ。
白いスカートが母さんまぶしいよ…。
ケージのある部屋に2人でするりと入ってくる。
と、二人して猫のケージに背を向けて座る。
?
猫のケージに真っ先に寄り、
猫を見つめて「きゃー、かわいいですね!!」とかもないのだ。
不思議に思っていると、
「まず、座りましょうか。」
「猫が落ち着くまで静かにしているんです。」
「最初怖いだろうし。」
と、夫婦共々おちついたトーンで語る。
!
なんという猫目線。
考えたこともなかった。
おみやげのハーゲンダッツを食べながら、ふむふむと話を聞く。
猫は大きな動きが嫌いなんだ。
手のひらひらひらも嫌いなんだ。
猫の横に目線を合わせず座るんだ。
最初は慣れるまでじっとしているんだ。
そのうち、あっちから近寄って来るんだ。
猫カフェってそんな感じなんだー。
へー。へーの連続である。
やっぱり私、猫のこと全然知らない。
聞けば、実家で猫を飼っていたこともありで、猫レベルが高いこと間違いなしのお二人である。
新しいお客さんに、興奮するのか、
ケージの中をどたどたとするおさじさんとウィンクであったが、
そのうちに静かにいつものように座り込んでいた。
その間、およそ15分。
今回の件で相当数の猫好きさんとお話しする機会が多いんだけど、
やわらかで穏やかな話し方をする方が多い。
と、猫を通して人当りを学ぶ。
「じゃ、いきますか。」
とゆっくりとケージに向かい、ぱかっとケージのドアを開ける。(もう、ここで怖い)
「ちゅーる♪」と奥さんは指先にチュールをつけて、おさじさんの顔前に指を突き出す。
まじか!
絶対できんわ。
猫がひるむも、奥さんはぐいぐい、優しい声で「はい、ちゅーる♪」と言いながら、指先を猫の顔に近づけていく。
不思議なことに、猫が逃げて行かない。
すると、おさじさんは戸惑いながらも、だんだん手を伸ばし、しまいにはチュールをなめていた。
まじですかー。
ちゅーるも、まじすごいけど、おくさん、すごすぎじゃなーい。
「噛まれるかもしれないじゃん?怖くないの?ひっかかれたら嫌じゃないの?」
と聞くと、
奥さんはにっこりとして、
「子猫ですから♪」
!
!!
なんだ、この禅問答のような会話…
と、振り向けば、なんとあのウィンクさんが優しくなでられている。
!
!!
本当にびっくり。
そんなことが可能なのね…
私は彼の心を開くのに、てっきり1年はかかるかと思っていたのに…
ケージの外に初めて出た二匹。
どうやってケージの中に帰るか心配だったのだが、
トイレ掃除したてのトイレを入れた瞬間、ケージ内に入った賢い子たちであった。
楽しそうでなにより。
そうそう、私が今までテレビや雑誌で見た猫は、こんな光景だった。
ケージの中だけは嫌だよね。
ごめんね。
どうか、子猫たちをいっぱい撫でて、抱っこできる方にもらわれますように。
どうか、子猫の未来が幸せでありますように。
と、母さんはただ祈り、静かに猫のうんこを片付ける。
どうか、どうか。